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一陸技は役に立たない?年収や独占業務から見る市場価値の真実

第一級陸上無線技術士、通称「一陸技」。無線従事者免許の最高峰として知られるこの資格ですが、ネットで検索すると「一陸技 役に立たない」といったネガティブな言葉を目にして不安になっていませんか?苦労して物理の勉強をして、難易度がおかしいと言われるほどの試験を突破しても、実務経験なしでは求人がないのではないか、年収も期待ほど上がらないのではないか。そんな疑問を持つのは当然のことです。特に過去問の解説を読みながら挫折しそうになっている時は、なおさら「取る意味があるのか?」と自問自答してしまいますよね。

  • 一陸技が「役に立たない」と誤解される構造的な理由
  • 未経験からでも狙える年収ラインと具体的なキャリアパス
  • 第一級陸上特殊無線技士(一陸特)にはない法的な独占業務
  • 5G・6G時代における無線技術者の将来性と市場価値

先にひとこと

この記事は「一陸技は万能だから取ればOK!」みたいな煽りはしません。逆に「役に立たない」と切り捨てるのも違うと思っています。資格の性質・業界の構造・あなたの現在地を合わせて整理すると、モヤモヤがだいぶ解けるはずです。

一陸技が役に立たないと言われる背景

そもそも、なぜ国家資格の中でもトップクラスの難易度を誇る一陸技が「役に立たない」などと言われてしまうのでしょうか。火のない所に煙は立たないと言いますが、これには資格の性質や業界構造、そして受験者の期待値とのギャップが大きく関係しているんです。まずは、そのネガティブな評判が生まれるメカニズムを紐解いていきましょう。

難易度がおかしい試験と合格率

一陸技の試験勉強を始めた人が最初にぶつかる壁、それが「難易度」です。合格率は例年20%〜25%程度で推移していますが、この数字以上に中身がハードなんですよね。「無線工学の基礎」「無線工学A」「無線工学B」「法規」の4科目があるんですが、特に工学系科目のレベルは大学の教養課程から専門課程レベル。

「難易度がおかしい」と言いたくなる気持ち、私にも痛いほどわかります。単なる暗記で乗り切れるレベルを超えていて、しっかりと理屈を理解していないと解けない問題ばかりですから。かくいう私も、科目合格制度で3回受験し、合格しました。

ここがポイント

この「苦労して取った」という強烈な体験が、その後の「見返り」への期待値を過剰に高めてしまうんです。「これだけ苦労したんだから、取れば人生変わるはずだ」と。この高い期待値が、現実のキャリアとのギャップを生む最初の要因になっています。

「難しさ」には2種類ある

一陸技がやっかいなのは、難しさが「計算が長い」だけじゃないところです。私が感じる難しさはだいたい次の2つに分かれます。

  • 理解型の難しさ:電磁気・伝搬・変調など、概念が入ってないと式だけ追っても崩れる
  • 処理型の難しさ:dB計算、複素数、対数、単位変換など、ミスが出やすい地味作業が多い

この2つが同時に来るので、手が止まりやすいんですよね。「理解できない」→「計算も合わない」→「自分には無理かも…」となりやすい。ここで一気にメンタルが削られて、「いや、どうせ役に立たないし…」と逃げ道を探し始める、という流れがわりと典型パターンかなと思います。

“合格率”より刺さる現実:途中脱落が多い

合格率の数字ももちろん重いんですが、それ以上に効いてくるのが「勉強を継続できずに離脱する人が多い」点です。特に社会人だと、仕事・家庭・体調・予定に毎週のように揺さぶられます。そこで「1週間空いた」→「再開が怖い」→「過去問を開くのが嫌」→「役に立たないって書いてあるし…」となりがち。

つまり、ネットで見かける「役に立たない」には、資格の価値そのものというより、学習体験の苦さが混ざってるケースがかなり多いです。これは知っておくだけでも、気持ちが少しラクになります。

メンタルが折れやすいタイミング

  • 初めて過去問を解いて「2割も取れない」と気づいた瞬間
  • 解説を読んでも「なぜその式変形?」が分からない瞬間
  • 法規を後回しにして直前で詰む瞬間(地味に多いです)

物理への苦手意識と過去問の罠

一陸技の受験を決意したチャレンジャーたちが、最初に、そして最も大きくつまずくのが「物理(特に電磁気学)の壁」です。こればかりは、精神論でどうにかなるものではありません。

テキストを開いた瞬間、目に飛び込んでくるのはマクスウェル方程式の積分形や微分形、複素数を使ったインピーダンス計算、そして対数(log)を用いたデシベル計算の嵐……。高校時代に物理や数学を避けてきた「文系出身者」や、理系でも工学系以外の方にとっては、これらはもはや「未知の古代文字」に見えることでしょう。

特に最難関とされる科目「無線工学の基礎」では、電界・磁界のベクトル解析や過渡現象といった、大学の電気電子工学科で1〜2年かけて学ぶ内容が凝縮されています。過去問の解説を読もうとしても、「そもそも解説に使われている日本語(専門用語)の意味がわからない」「数式の変形がなぜそうなるのか、1行目から2行目の間にある飛躍が理解できない」という状態に陥りがちです。

「過去問丸暗記」が通用しない時代へ

かつて、一陸技の試験対策といえば「過去問の丸暗記」が王道でした。「過去10年分を暗記すれば、理屈がわからなくても受かる」という先輩の武勇伝をネットで見かけることもあります。確かに、一昔前までは過去問の再出題率が非常に高く、数値すら変えずにそのまま出題されることも珍しくありませんでした。

しかし、ここ数年で風向きは確実に変わっています。

丸暗記勢を狙い撃ちにする新傾向

近年の試験では、過去問と見た目は似ていても「条件設定が微妙に変えられている」「問われている視点が逆になっている」といった問題が増えています。例えば、アンテナの指向性パターンの問題で、ヌル点の位置を求める計算条件が変わっていたり、回路図の抵抗値が変数になっていたりと、単なる「答えの形(ビジュアル)の暗記」では太刀打ちできないよう巧妙に対策されています。

「この問題の答えは③番!」と覚えてきた受験生は、試験本番で少し捻られた瞬間に思考停止し、手も足も出なくなります。その結果、「あんなに時間をかけて暗記したのに、全然解けなかった……」という深い絶望感を味わうことになるのです。

「役に立たない」という感情の防衛機制

一陸技が役に立たないと感じる2つの心理的トラップ(期待値とのギャップ・苦痛からの防衛機制)

そして、この学習の苦しみこそが、ネット上で「一陸技 役に立たない」という言葉が検索される大きな要因の一つになっています。

難解な物理公式と格闘し、何度も計算ミスをしてイライラが募ってくると、人間はどうしても自分を守るための理由を探し始めます。「そもそも、現場で微分積分なんて使うのか?」「アンテナの設計なんてメーカーの仕事で、運用者の私たちがやるわけないだろう」と。

実際、現場の実務でフレネルゾーンの半径を手計算することはまずありませんし、スミスチャートを手書きすることも稀です。現代には優秀なシミュレーションソフトがありますからね。この「試験内容(アカデミックな物理)」と「現場実務(運用・保守)」の乖離が、「こんな勉強しても意味がない=役に立たない」という思考を加速させます。これは、辛い現実から逃れるための、ある種の「認知的不協和の解消(酸っぱいブドウの心理)」とも言える現象なんです。

それでも物理を学ぶ意味

ですが、あえて厳しいことを言わせてください。この「物理の壁」を乗り越えるプロセス自体にこそ、一陸技の価値があります。

現場でトラブルが起きた時、例えば「なぜか特定の方向だけ電波が飛ばない」「雨の日だけ通信品質が落ちる」といった現象に直面した際、物理の基礎があるエンジニアは「反射波の干渉かな?」「回折損失の影響か?」と、現象を理論的に推論できます。一方で、丸暗記で乗り切った人は「機械の故障ですかね?」と思考停止してしまいます。

一陸技が「役に立たない」のではなく、物理の苦しみから逃げて「理屈を理解しないまま資格を取ろうとする姿勢」が、将来的に役に立たないエンジニアを生んでしまうリスクがあるのです。今は辛いかもしれませんが、オームの法則や三角関数の復習から逃げずに立ち向かうこと。それが、遠回りのようでいて、実は「使える一陸技ホルダー」への最短ルートなのです。

私が推したい“過去問の使い方”

ここ、めちゃくちゃ大事なので具体化します。過去問って「答えを覚える道具」じゃなくて、“問われ方の癖を知る地図”なんですよね。おすすめは次の順番です。

  1. まず1年分を解く(点数は気にしない)
  2. 間違えた問題を「分野タグ」で分類する(伝搬/変調/回路/アンテナ/法規など)
  3. タグごとに弱点を潰す(参考書・講義・動画など何でもOK)
  4. もう一度同じ年を解いて「なぜそうなるか」を言葉で説明してみる

これをやると、「暗記が崩れたら終わり」から「理解が積み上がる」側に移れます。気持ちの安定度が全然違います。

一陸技の就職を阻む3つの構造的な壁(社内評価・勤務地・実務経験)

実務経験なしにおける就職の壁

これが「役に立たない」説の核心部分かもしれません。晴れて一陸技を取得しても、いざ転職活動をしてみると「実務経験なし」の壁にぶつかることがあります。

特に、大手通信キャリアの設備設計や、放送局の技術職といった花形職種は、即戦力を求める傾向が強いです。「資格は持っていますが、スペクトラムアナライザ(測定器)は触ったことがありません」という状態だと、いきなり高待遇で採用されるのは難しいのが現実です。

ここで「資格さえあれば無双できると思っていたのに!」という失望感が生まれ、「苦労した割に求人がないじゃないか」という感想に繋がってしまうわけですね。

“未経験OK”の中身を読み違えると痛い

求人票でよく見る「未経験OK」って、正直ピンキリです。私が見てきた範囲でも、次の2タイプがあります。

  • 本当に育てる前提:点検・保守・運用監視など、OJTで覚えやすい業務から入れる
  • 未経験OK(ただし下積み長め):現場作業・夜勤・出張が多く、合う人には合うけど覚悟が要る

ここを誤解すると「思ってたのと違う…」になって、また「役に立たない」に戻ります。だから私は、未経験の人ほど「最初の1社目は“経験を買う場所”」と割り切るのが現実的だと思っています。

未経験スタートで強いアピール材料

  • 科目合格の途中でもいいので、勉強継続の実績(何時間やったか、何をやったか)
  • 簡単な測定器の経験(学校・趣味でもOK。操作したことがあるだけで会話が成立します)
  • 安全・ルール順守の姿勢(法規の理解は現場でかなり効きます)

「実務経験」を最短で作る考え方

実務経験って、いきなり設計職で積む必要はありません。たとえば「運用監視」や「保守点検」って地味に見えるかもですが、ここで“現場の言葉”を覚えるのが強いです。障害切り分けの基本、設備の構成、点検の流れ、報告書の書き方。これ、設計に行っても全部つながります。

あと、面接で刺さりやすいのは「現場で困るポイントを理解しているか」です。資格勉強の知識だけだと抽象的に聞こえやすいので、「雨天で品質が落ちるのは、反射や減衰が絡む可能性があるので、まずログと測定条件を揃えて…」みたいに、筋道で話せると一気に評価が上がります。

期待した求人がないエリアの問題

勤務地についてのミスマッチも見逃せません。無線通信の最先端技術を扱う仕事や、大規模なネットワーク設計の仕事は、どうしても東京や大阪などの大都市圏に集中しています。

地方在住の方が一陸技を取得して求人を探しても、見つかるのは基地局の建設現場や、山間部の保守点検といった「現場仕事」が中心になることが多いです。「ホワイトなデスクワーク」をイメージしていた場合、このギャップは大きいです。「地元には活かせる仕事がない=役に立たない」という結論に至ってしまうのも、無理はないかもしれません。

“無線の仕事”は、実は地理に縛られやすい

無線ってクラウドみたいに「どこでも同じ」じゃなくて、基地局も送信所も中継局も物理的にそこにあるので、どうしても地理の影響を受けます。しかも、山間部や沿岸部、雪国など、環境が厳しい場所ほど「保守の仕事」が増えがちです。だから地方求人が“現場寄り”になりやすいのは、構造的に自然なんですよね。

エリア傾向 出やすい求人 メリット 注意点
大都市圏 設計・最適化・監視センター・放送技術 キャリアの選択肢が多い 競争が強め、要求水準も上がりやすい
地方中核都市 保守・施工管理・官公庁系の運用 生活コストが抑えやすい “設計専門”は少なめ
山間部・離島など 点検・復旧対応・現地保守 資格が刺さる場面が多い 出張・夜間対応が増えることも

「地元で活かす」なら、発想を少しズラす

“最先端の無線”だけが活かし先じゃないです。地方でも、自治体の防災無線、鉄道・電力・水道などのインフラ系、放送の中継局、企業の専用無線、衛星系の設備など、地味に無線はあります。派手じゃないけど、こういうところは止まると困るので、責任ある人材が必要になります。

あと、今だと「出社は地方、案件は都市圏」という形で、月数回の出張で回す会社もあります。完全リモートは難しくても、“拠点は地元”が成立するケースは増えてきています。ここは求人の探し方次第で、見え方が変わります。

ミスマッチを減らす質問例(面接で聞いてOK)

  • 担当エリアは固定か、広域出張があるか
  • 夜間・休日対応の頻度はどれくらいか
  • 現場とデスクワークの割合はどの程度か

取得しても意味ないと感じるケース

また、すでに業界で働いている人が取得した場合でも、「意味がない」と感じるケースがあります。例えば、社内の評価制度が整っていない会社にいる場合です。

苦労して取得しても、資格手当が数千円だったり、そもそも手当が出なかったりするとモチベーションは下がりますよね。また、業務内容が資格を必要としない(無資格でもできる作業ばかり)場合、「宝の持ち腐れ」感を強く感じてしまいます。これは資格自体の問題というよりは、所属している環境(会社)とのマッチングの問題と言えるでしょう。

“会社の中”だけで判断すると、だいたい損する

ここ、ちょっと本音です。資格の価値って「今の会社の制度」だけで測ると、かなりズレます。たとえば今の会社が資格を評価しないとしても、市場(転職市場)では評価されることがある。逆に、今の会社で手当が出ても、市場ではそこまで…ということもある。

だから私は、「意味がない」と感じたときほど、社内評価と市場評価を分けて考えるのがおすすめです。社内で評価されないなら、評価される場所に移ればいい。極端に聞こえるかもですが、資格ってそういう“移動の自由度”を上げる道具なんですよね。

意味ないと感じやすい“あるある”

  • 資格を取ったのに、業務が変わらない(権限も任されない)
  • 手当が微妙で、勉強コストに見合わない気がする
  • 上司が無線を理解しておらず、評価の軸が別にある

打ち手は3つだけ(シンプルに)

一陸技を活かすための3つの打ち手(社内で活かす・市場で活かす・掛け算で強くする)

結局、打ち手は次の3つに収束します。

  1. 社内で活かす:主任無線従事者の選任、点検系の担当、設備更新プロジェクトに食い込む
  2. 社外で活かす:求人を見て“相場”を把握し、評価される場所へ移る
  3. 掛け算で強くする:施工管理、ネットワーク、電気工事、英語などと組み合わせる

私のおすすめは、まず②で相場確認です。転職するかどうかは別として、相場を知るだけで「自分の武器の強さ」が客観視できて、社内のモヤモヤが整理しやすくなります。

一陸技は役に立たない説への反証

さて、ここまでネガティブな側面を見てきましたが、ここからは私が自信を持ってお伝えしたい「真実」のお話です。結論から言うと、一陸技は間違いなく市場価値の高い、強力な武器になります。BtoBのインフラ業界という、普段は見えにくい場所で輝くこの資格の本当の価値を解説します。

実際の年収事例と資格手当の額

一陸技の経験別年収レンジ(350万~1000万超)と学習時間を回収する経済価値

まずはお金の話からいきましょう。一陸技保有者の年収は、決して低くありません。私の知る限りや求人データを見ても、未経験者であっても年収400万円台からスタートできるケースが多く、経験を積めば600万円〜800万円、さらに大手企業の管理職クラスになれば1,000万円プレイヤーも珍しくありません。

経験レベル 想定年収レンジ 職種例
未経験・初級 350万〜450万円 基地局保守、衛星運用監視
経験者・中堅 500万〜750万円 インフラ設計、施工管理、放送技術
高度専門職 800万〜1,000万円超 大手キャリア管理職、現場代理人

さらに注目すべきは「資格手当」です。企業にもよりますが、一陸技には月額1万円〜2万円の手当がつくことが多いです。仮に月1万円だとしても、30年間で360万円の差になります。「役に立たない」どころか、非常に堅実な資産形成ツールと言えます。

年収は「資格だけ」で決まらない。でも“下駄”にはなる

ここは誤解しやすいので正直に言うと、一陸技を取った瞬間に年収がドカンと跳ねる人ばかりではないです。特に未経験だと、最初は伸びが緩いこともあります。

ただし、一陸技が効いてくるのは「責任を任せる局面」です。主任無線従事者の選任、検査・点検の要件、設備の立ち上げ、監督責任。こういう“穴が空くと困るポジション”は、資格がある人に寄ります。結果として、昇格・担当範囲・手当がついてきて、あとから効いてきます。

お金の面で「回収できた」と感じやすいパターン

  • 保守→点検→設計補助…と職域が広がって基本給が上がる
  • 資格手当+夜勤手当+出張手当で、初年度から年収が底上げされる
  • “責任者枠”に入り、転職の選択肢が一気に増える

転職市場で評価される本当の需要

「一陸技を取っても求人がない」という嘆きをSNSなどで見かけますが、これは少し誤解が含まれているか、あるいは「探し方」と「狙う業界」が少しズレているだけかもしれません。

実態として、通信インフラ業界における技術者不足は深刻です。現在、通信業界は「5G(第5世代移動通信システム)」のエリア展開競争の真っ只中にあり、さらにその先にある「6G」や「IOWN構想」、そして民間企業主導の「宇宙ビジネス(衛星コンステレーション)」と、技術革新のネタに事欠きません。これらの新しいインフラを構築・維持するためには、法律上、どうしても無線従事者が必要になるのです。

5G・6Gがもたらす「物理的な」仕事量の増加

5G・6G時代におけるスモールセル基地局の増加と一陸技の需要拡大イメージ

特に5Gの影響は甚大です。5Gで使用される「Sub6」や「ミリ波」といった高い周波数帯の電波は、超高速通信が可能である反面、「直進性が強く、障害物に遮られやすい」「遠くまで飛びにくい」という物理的な弱点を持っています。

そのため、広いエリアをカバーできていた4G(プラチナバンド等)の時代とは異なり、5Gでは電柱やビルの壁面、信号機などにあらゆる場所に小型の基地局(スモールセル)を多数設置しなければなりません。基地局の数が10倍になれば、単純計算で設置工事、電波測定、エリア調整、そして保守点検の仕事も10倍になります。つまり、技術革新が進めば進むほど、私たち無線技術者が扱うべき仕事の総量は、構造的に増え続けているのです。

ローカル5Gという新市場

通信キャリアだけでなく、工場や自治体が独自の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」の導入も進んでいます。これにより、今まで無線と無縁だった一般企業やSIer(システムインテグレータ)でも一陸技保有者の求人が生まれており、活躍のフィールドは確実に広がっています。

未経験者の救世主「登録検査等事業者」

未経験者が登録検査等事業者を経てプロの技術者になるキャリアステップ図

そして、実務未経験の方にこそ知ってほしいのが、「登録検査等事業者」という存在です。これは、総務省の代わりに無線局の検査(点検)を行う民間のプロフェッショナル集団のことです。

法律(電波法)により、無線局は開設時や定期的に検査を受ける義務がありますが、国の検査官だけではとても手が回りません。そこで、認定を受けた事業者が代行して点検を行うのですが、この点検業務を行う「点検員」になるための要件として、一陸技(または一陸特等)の資格が必須とされています。

この業界は常に有資格者を求めており、「資格さえあれば、実務は入社後に教えます」というスタンスの企業が非常に多いのが特徴です。まずはここで点検員としてキャリアをスタートさせ、色々な無線局の現場を見て回ることで、測定器の使い方や設備の知識を身につける。それが、上位職種へステップアップするための最も確実な「王道ルート」と言えるでしょう。

(出典:e-Gov法令検索『登録検査等事業者等規則』)

安定性も抜群

無線局の定期検査は法律で決まっている義務(法定需要)なので、景気が悪くなっても仕事がなくなりません。この不況に強い安定性も、一陸技保有者が評価される大きな理由の一つです。

探し方のコツ:「通信キャリア」だけを見ない

「求人がない」と感じる人の多くが、検索対象を“通信キャリア本体”に寄せすぎている印象があります。実際は、キャリア本体の周りに、建設・保守・点検・設計支援・監視センターなどの関連企業が大量にいて、そこが人手不足だったりします。

未経験で現実的なのは、まず周辺から入って経験を積み、そこからキャリア本体やメーカー、SIerへステップアップする流れです。ここを理解すると、「役に立たない」どころか、むしろ入口として強い資格に見えてくるはずです。

一陸特と比較した圧倒的な権限

ネット上の掲示板や知恵袋などを見ていると、「一陸技はコスパが悪いから、需要の高い第一級陸上特殊無線技士(一陸特)で十分」という意見をよく見かけます。確かに、携帯電話の基地局工事や保守の現場など、日常的な業務の多くは一陸特の資格があれば法的にカバーできるのは事実です。一陸特は試験の難易度も手頃で、非常にコストパフォーマンスに優れた資格であることは私も否定しません。

しかし、エンジニアとして「キャリアの天井」を意識した時、両者の間には越えられない壁が存在します。それは、「扱えるパワー(空中線電力)と技術範囲の制限」です。

「制限なし」という最強のステータス

第一級陸上無線技術士(制限なし)と第一級陸上特殊無線技士(制限あり)の操作範囲比較

一陸特には明確なリミッターが設定されています。「多重無線設備は30MHz以上」「空中線電力は500W以下」といった具合です。つまり、500Wを超えるような大電力の無線局や、特定の周波数帯を使う高度な通信設備の前では、一陸特保有者は法的に手出しができません。

対して一陸技は、文字通り「陸上にある全ての無線局」を操作・監督できる、国内最高峰の資格です。制限記述がいっさい存在しません。

  • テレビ局の親局(東京タワーやスカイツリー等の送信設備:数kW〜数十kWクラス)
  • 国際通信を担う巨大なパラボラアンテナを持つ衛星通信所
  • マイクロ波を使う長距離多重無線回線(固定局)

こういった、社会インフラの根幹を支える大規模かつ高出力な設備を扱えるのは、一陸技(または二陸技)保有者だけの特権です。「日本国内に、自分が法的に扱えない無線機は存在しない」という状態になれるのは、技術者として非常に大きな自信と強みになります。

選任される側の「代わりの効かなさ」

また、無線局の運用責任者である「主任無線従事者」の選任においても、一陸技は圧倒的に有利です。大規模な無線局では、一陸特では主任無線従事者になれないケースが多々あります。

企業等の組織にとって、一陸技保有者は「いたら便利」な存在ではなく、「いないと局を開設・維持できない(免許が下りない)」という、事業継続の生命線となる存在です。この「代わりの効かなさ」こそが、景気変動やAIの台頭に左右されない、強固な雇用安定性を生み出しているのです。

キャリアの上限がない

現場作業員としてスタートしても、将来的に管理職や技術部長、あるいは大規模プロジェクトの責任者(現場代理人)を目指すなら、最終的に一陸技が必須となります。一陸特でキャリアをスタートした人も、結局は後から一陸技を目指すことになるケースが多いので、最初から「上位互換」である一陸技を持っておくことは、長期的なキャリアパスにおいて最短ルートを行くことになるのです。

“違い”をもっと噛み砕くと「任せられる範囲」

一陸特と一陸技の差って、知識量というより「最終的に責任を持てる範囲」に出ます。現場でざっくり言うと、設備が大きいほど、出力が大きいほど、止めたときの影響がデカいほど、要求される資格が上がります。

この差が効くのは、いわゆる“上流”に上がっていく局面です。今の時点で現場寄りでも、将来「監督」「管理」「責任者」に寄せたいなら、一陸技は強いカードになります。

内部リンク(深掘り)

「すごいと言われる理由」や、活かせる職場のイメージをもう少し具体化したい場合は、一陸技がすごいと言われる理由と価値も合わせて読むと、判断材料が増えます。

勉強時間を回収できる費用対効果

一陸技の合格に必要な学習時間は、理系大学レベルの基礎知識がある人で500時間程度、文系や初学者の場合は1,000時間〜1,500時間が必要とも言われています。平日の夜や休日を全て勉強に捧げても、半年から1年はかかる計算です。「そこまでして取る価値があるのか?」と心が折れそうになるのも無理はありません。

しかし、この1,000時間を「コスト」ではなく「投資」として捉え、そのリターン(ROI)を計算してみると、一陸技ほど割の良い投資案件はなかなかありません。

生涯年収へのインパクト

先ほど触れた資格手当の話をもう一度思い出してください。月額1万円〜2万円の手当が定年まで続くとすれば、それだけで数百万円のプラスです。さらに、資格保有を条件とした昇進や昇格、基本給のベースアップを含めれば、生涯年収の差は1,000万円を超えることも珍しくありません。

1,000時間の勉強で1,000万円のリターンが見込めるとしたら、時給換算で1万円以上の価値を生む勉強ということになります。これほど効率の良いアルバイトは存在しませんよね。

「更新不要」という隠れたメリット

意外と見落とされがちですが、一陸技は医師や弁護士、あるいは一部のITベンダー資格とは異なり、「更新制度」がありません。一度合格して免許証を受け取れば、講習を受けたり更新料を払ったりする必要がなく、その効力は一生涯続きます。

つまり、一度取得してしまえば、維持コストゼロで死ぬまで「第一級陸上無線技術士」を名乗り、その独占業務権を行使できるのです。20代で取得すれば、50年以上にわたってその恩恵を受け続けることができます。

最強の老後対策(シルバー人材としての需要)

そして何より強調したいのが、定年後の「再雇用」における圧倒的な強さです。無線局の「必置義務」は、管理者が高齢であっても免除されません。そのため、現場作業が体力的に厳しくなったシニア層でも、「点検員」や「管理者(名義人)」として、無理のない範囲で働き続けることが可能です。

「年金の足しに、週3日だけ無線設備の点検業務を行う」といった働き方ができるのも、この資格ならでは。「一陸技を持っている限り、食いっぱぐれることはない」という安心感は、変化の激しい現代社会において、何物にも代えがたい精神安定剤になるはずです。

“回収”を早めるコツは「科目合格」を前提にする

もしあなたが文系・初学者寄りで、「一発合格にこだわるとキツい…」と感じているなら、私は科目合格(分割戦略)をかなり推します。無理な計画は挫折の元なので、結果的に遠回りになります。

勉強時間の組み方や、現実的なスケジュール感は別記事でかなり細かく整理しています。ここは状況別に最適解が変わるので、気になるなら一陸技の勉強時間は?文系・理系の目安と合格戦略【徹底解説】を参考にしてください。

注意:費用対効果が落ちるパターン

  • 勉強の目的が「合格」だけになり、取得後の動きが止まる
  • 求人の選び方を間違えて、資格が活きない職種に入る
  • 体調や生活を崩して、継続できなくなる

一陸技は役に立たないという嘘

最後にまとめです。「一陸技は役に立たない」という言葉は、多くの場合、適切な職種に出会えなかったり、資格取得直後の過度な期待とのギャップから来る誤解に過ぎません。

実際には、現代社会のライフラインである通信インフラを支える、なくてはならない資格です。もちろん、資格さえあればあぐらをかいていても高給がもらえるわけではありません。しかし、「資格 × 実務経験」が揃った時、その市場価値は跳ね上がります。

もしあなたが今、勉強にくじけそうで「役に立たない」理由を探しているのなら、その手を止めてもう少しだけ頑張ってみませんか?その努力の先には、確実に必要としてくれる場所と、安定した未来が待っていますよ。

私の結論:役に立つかどうかは「使い方」で決まる

資格って、持っているだけで魔法が起きるものじゃないです。でも、一陸技は“使う場所”がちゃんと存在するタイプの資格です。通信キャリア、放送、インフラ、点検、保守、衛星、専用無線。世の中が無線を捨てない限り、消えにくい需要です。

逆に言うと、資格が活きない職場や役割に入ってしまうと、「役に立たない」に見えます。だからこそ、この記事で整理したように、背景の構造を知ったうえで、狙う場所を選ぶのが大事かなと思います。

一陸技を役立てるために今日からできる3つの行動(求人の見極め・希望の言語化・強みの決定)

読んだあとにやると強い3つ

  • 「未経験OK」の中身を見抜く(育成型か、下積み前提か)
  • 自分の希望(勤務地・働き方・年収)を3つだけ言語化する
  • 資格×何で勝つか決める(点検、施工、設計、運用…どれでもOK)

※本記事の情報は執筆時点の一般的な傾向に基づくものです。実際の年収や求人状況は、個人の経歴や応募企業により異なります。キャリアに関する最終的な判断は、専門のエージェント等にご相談ください。

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レオ

Wireless Tech Note は、無線・Bluetooth・Wi-Fi・通信技術を、公式情報や規格を基に分かりやすく解説する技術ブログです。 仕組みや背景を丁寧に整理し、一次情報へ戻れる安心できる解説を目指しています。 保有資格:第一級陸上無線技術士、基本情報技術者

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